このたび、『記号心理学概論』という本をAmazonで販売させていただくことになりました。
本書は、このHP上で公開している「精神の本質」という論文を大幅に改定したものになります。かなり読みやすくなっているので、ぜひチェックしてみてください。
本書の主題は人間の意識です。現在の脳科学では、感覚器官から中枢神経系への上行経路と、中枢神経系から筋肉への下行経路について、かなり詳しいことがわかっています。しかし、両者をつなぐ中枢神経系における情報処理は意識の領域とされ、ほとんど研究が進んでいません。本書はこの部分にメスを入れ、人間の意識を数理モデルとして表現します。
人間の認識は意味ニューロンの発火によって表現されます。リンゴの認識にはリンゴ・ニューロンが対応し、バナナの認識にはバナナ・ニューロンが対応します。これが認識の基礎であり、同時に言語の基礎となっています。それぞれの単語は単一のニューロンの発火によって表現されるのです。本書はこの仮説を理論的に証明しています。
この意味ニューロン仮説を用いることによって、人間の精神と肉体を統一的に理解することができるようになります。我々はもはやこころとからだを区別する必要はなく、ひとつの物理現象として人間存在を表現します。さらに、ここでは物理学そのものも変容を被ります。粒子と場を中心とする現在の描像から、因果律を中心とする新しい描像への変化が求められるようになります。
『反原子論の歴史』とあわせてお読みいただくと、より理解が深まると思います。ただ、『反原子論』は高度な物理学の知識を要求しますので、注意してください。『記号心理学』は神経科学に関する初歩的な知識があれば、読み進めることができます。
人間に関する統一的な学問を確立し、倫理や道徳について議論することが、本書の究極の目的です。現在の理系・文系が分裂した学問状況では、正しい人間理解を得ることは不可能です。より実践的かつ倫理的な学問を確立するためには、文・理を統一し、学問の完全性を取り戻す必要があります。
本書は神経科学に関する書であると同時に、道徳に関する書でもあります。本書がアリストテレスやC・S・パースの著作に言及するのはそのためです。すべての学問は道徳的でなければなりません。さもなければ、それは学問の名に値しないものとなるでしょう。
『記号心理学概論』と『反原子論の歴史』は著者の科学研究の集大成となるものです。両書を一つの区切りにして、次の問題に進みたいと思います。