食文化

 沢庵を作るときには、大根はよく干したほうがよい。スーパーで売っている沢庵の多くは、大根を十分に干さずに調味液に漬け込んでいる。だが、干してから漬け込んだ方が、大根の旨みが凝縮されるし、食感もよくなる。
 塩鮭も本当は、鮭の身に塩を擦りこんで、しばらく寝かせておいたほうがよい。そうやって作った新巻鮭は、やはり旨みが強くなる。昔は冷凍保存の技術がなかったので、獲った鮭は塩漬けにして保存するしかなかった。だが、そうして熟成させた方が、かえって美味しくなるのである。

 こんな風に考えてみると、案外むかしの人の方が、美味しいものを食べていたのかもしれない。いまスーパーで買い物をすると、どうしても値段にばかり目が行く。売る方も、あまり手間をかけずに商品にしてしまって、大量に売りさばいた方が利益が出る。それも一概に悪いとは言えないが、食文化の観点から見れば、やはりよいことではない。
 人間の文化は食事の中にある。コンピューターや電気自動車がどれだけあっても、うまい食事がなければ文明とは言えない。それも、レストランで高い料理を楽しむのではなく、日々の食事が美味しくなければいけない。
 そう考えると、我々が本当に高度な文明を持っているのかどうか、疑わしくなってくる。

(AIと哲学 終)

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