もしも米軍が本土に侵攻していたら

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日本は本土戦を回避するためにアメリカに降伏した。では、もしも本土戦が始まっていたら、どうなっていただろうか。日本は負けていただろうか。

おそらく、負けなかっただろう。戦争はベトナムのように泥沼化し、長期化しただろう。そして十年くらい後に、どちらが勝ちとも負けともつかないまま、うやむやのうちに終わりを迎えただろう。

終戦間近の日本人は竹槍の訓練をしていたという。これを馬鹿にする人もいるが、たとえばベトコンは、落とし穴の底に斜めに切った竹を敷き詰め、それで米兵を殺していた。殺さずとも怪我を負わせられれば、戦力を減らすことができる。つまり、兵隊を倒すためには竹があれば充分である。まして竹槍があればいくらでも戦うことができる。

日本は山が深い。山間に隠れたゲリラ兵が散発的に攻撃を行うようにすれば、大軍を悩ませることもできる。一億総火の玉に突っ込んだアメリカ軍は、ただでは済まなかっただろう。


だが、もしも戦争が続いていれば、アメリカは日本中に原爆を落とし、日本を文字通り焼け野原にしてしまったのではないか、という反論もあるかもしれない。その場合、アメリカはナチスと同じ汚名を被ることになるだろう。自由のためではなく、虐殺のために戦争をしたのだと糾弾されざるをえない。

原爆は二度で終わったので、それが戦争の早期終結を実現させたとして、アメリカ国民も納得している。しかし、もしも二度の原爆投下によって戦争が終わらず、その後も日本中に原爆が投下され続けたとしたら、アメリカ国民や世界中の人々は、それでもアメリカ政府を擁護することができただろうか。原爆の投下については、アメリカ政府も慎重にならざるをえなかっただろうと考えられる。

アメリカは日本の山間部に空爆を繰り返すが、それでも散発的な攻撃は続く。本土に侵攻してくるアメリカ軍は数十万だろう。それに対して敵は一億である。どうしてこれに勝てると思うのだろうか。戦争の泥沼化は必至である。そうなれば、アメリカ側にも大きな損害が出ただろう。

天皇陛下は、そのような事態を避けるために終戦を選んだ。それは日本人だけではなく、アメリカ人のためでもあったのである。アメリカはすでに手詰まりだった。沖縄まで来たはよいものの、すでに司令官は死に、行く手には死を恐れぬ日本人との死闘が待っていた。本土作戦は、それまでの海洋上の戦いとは全く異なるものになるだろう。アメリカの得意とする海兵隊による上陸作戦はもはや通用しない。不得手な陸上戦でどれだけの被害が出るか、アメリカ側にも相当の覚悟が必要であった。


そこで天皇は降伏を申し出た。アメリカにとっては、これは願ってもないことである。

しかし、本当にそれでよかったのだろうか。いったいアメリカは、何のために戦争を始めたのか。そこでやめてしまったら、戦争を始めた意味がなくなってしまうのではないか。だが、すでに大統領は代わり、アメリカ人からは戦争を始めた当初の記憶は失われていた。本当に忘れっぽい国民である。

アメリカは中国を手に入れるために戦争を始めたのではないか。そのために日本を滅ぼす必要があった。それなのに日本の降伏を認めてしまえば、中国が失われることは確実である。アメリカは結局、日本の意のままになるしかなかった。単に駄々をこね、人を殺し、都市を破壊し、抵抗を感じたところでやめただけである。彼らの望みは何一つ叶っていないが、すでに駄々をこねた理由は忘れてしまっている。

天皇陛下は愚かな子供をあやすように、アメリカ人を満足させて、彼らの怒りを鎮めさせた。それが戦争終結とともに、日本の望みを叶える道だと知っていたからである。東亜の平和は、天皇陛下の御聖断によって確立された。まことに尊い御判断である。

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太平洋戦争を理解するためには、まず、アメリカという国家について知らねばならない。

アメリカは一種の独裁国家である。アメリカという国家の方針は、すべて大統領個人の性格によって決まる。そのため、アメリカ政府には一貫した意志は存在せず、大統領の交代と共に国家の性格が一変してしまう。四年に一度大統領が交代するというのは、政治に新しい風をもたらすという意味で確かに長所ではあるが、一方で国家の意志が一貫しないということは、場合によっては致命的な欠点になりうる。

政治をチェスにたとえよう。すると大統領の交代は、チェスの途中でプレイヤーが変わることを意味する。普通の国家であれば、トップの交代はそれほど大きな意味を持たない。実際に政治を行うのは官僚であり、政治家といえども彼らの意志を無視できない。そのため実質的には、チェスのプレイヤーは変わっていないと言える。

しかしアメリカの場合、実際に大統領が一人でチェスを打っている。それでも前任者の打ち筋を後任者が理解していれば、そのままチェスを続けることは可能である。だがもしも、後任者がチェス盤の意味を理解できなかったらどうなるだろうか。なぜこの駒がこの場所にあるのか、ということが理解できなければ、それをどう動かせばよいのか分かるはずがない。

私が理解するところでは、ルーズベルトは極度の秘密主義者だった。おそらく側近たちにも、自分の考えを明かしていなかっただろう。だからトルーマンは、ルーズベルトのチェス盤を理解できなかった。ここにアメリカという国家の弱点がある。

アメリカ政府には一貫した意志が存在しない。それは戦争において致命的な欠点となる。なんとなれば、一貫した戦略の下に戦争を遂行することができないからである。大統領が代わるごとに、アメリカ政府は戦争の目的を設定し直さざるをえない。だがそれでは、まともな戦争は期待できない。アメリカは戦争に関して無能である。

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