戦争について

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ここで一度、戦争について考えてみたいと思います。

戦争とは何でしょうか。戦争の勝敗は何によって決まるのでしょうか。

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まず、ナチス・ドイツの敗因について考えてみましょう。

当時のドイツの軍事力は強大でしたが、連合国側が攻勢に転じると、為す術なく敗れてしまいました。どうしてでしょうか。

ナチスにとって、戦争とは何だったのでしょう。

おそらく彼らは、人間を殺すことを戦争だと考えていたのでしょう。彼らのユダヤ人に対する態度を見ると、それが分かります。彼らはユダヤ人を殺すことで、ユダヤ人に勝とうとしていたのです。

しかし、それは上手くいきませんでした。彼らはホロコーストによって、大量のユダヤ人を殺害しました。しかし現在では、世界中にユダヤ人が溢れています。

つまり、ユダヤ人は、殺せば殺すほど増えるのです。それなのにナチスは、彼らを殺すことで、彼らに勝とうとしました。それが誤りだったのです。

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一般的に言って、あなたが殺せば殺すほど、敵は増えます。なぜでしょうか。

3.1

まず、人間は自然に増えます。

例えばあなたが、ある人間集団を疎ましく思っているとしましょう。あなたは、彼らを一人残らず殺害することで、彼らを排除しよう、と考えているとします。あなたは着実に、一人ずつ殺してゆくことでしょう。

しかし、殺されるほうも黙っているわけではありません。彼ら自身が非力であったとしても、まず抵抗し、そして助けを求めます。おそらく、彼らの声を聞きつけた第三者が止めに入るでしょう。邪魔が入ることによって、あなたは、彼らの一部を取り逃がしてしまうかもしれません。

逃げ出した人々は、別の場所に移り住むでしょう。世界は広いのですから、隠れ場所が見つからないとは限りません。やがて彼らは数を増やし、あなたに復讐する機会を待ち続けるでしょう。それはいずれ、あなたの身に災難を引き起こすはずです。

3.2

次に、例えば、あなたの軍隊が外国に攻め込んだとします。そこであなたは、人を殺し始めます。

人を殺すという行為は、殺されなかった人々の心にも、必ず反感を作り出します。あなたが人を殺し続けるならば、その土地の人々の心には、次第にあなたへの不信が育ってゆきます。やがて、初めは協力的だった人々も、新しくあなたの敵に加わるようになるでしょう。そのようにして、あなたが殺せば殺すほど、敵は増えるのです。

人は、自分に対してなされた悪を忘れないだけでなく、自分の同胞に対してなされた悪をも、決して忘れないものです。

再び、ナチスを例にとってみましょう。

彼らは、国内のユダヤ人を迫害し続けました。それによって、周辺地域に住むユダヤ人たちに、非常に強い敵対心を植え付けました。それが結局は、彼らを滅ぼすことになったのです。

敵を殺すことで戦争に勝とうとすることは、最も成功する可能性が低い戦略です。

3.3

アフガニスタンで戦っているアメリカ人兵士は、次のように考えているかもしれません。いくら殺しても、次から次と敵が現れるのは不思議である、と。しかし、既に述べたように、この二つの事象の間には明確な因果関係が存在します。

この道理を理解することができないならば、あなたは決して戦争に勝つことはできないでしょう。しかし、もしもこの道理が正しく理解できたならば、世界で最も強大な軍隊でさえ、あなたの敵ではないでしょう。

もしもあなたが、戦争を終わらせたくないならば、敵を殺し続ければよいでしょう。殺せば殺すほど敵は増えるので、いつまでも戦争を続けることができます。

もしもあなたが本当に、戦争を終わらせたい、と考えているならば、敵を殺してはいけません。別の方法をとる必要があります。

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4.1

では、戦争に勝つためには何をすればよいのでしょうか。

それを知るためには、どんな条件が達成されたときに戦争が終わるのか、ということを考える必要があります。

敵の首都を占領したときに、戦争は終わるのでしょうか。

しかし、たとえば、ナポレオンはモスクワを占領しましたが、戦争には負けました。また、日本軍は南京を占領しましたが、戦争には負けました。そして、アメリカ軍がカーブルを制圧したとき、そのときに戦争は始まったのです。

したがって、首都を制圧することは、戦争終了の条件ではありえません。では、いったい何をすれば戦争は終わるのでしょうか。

4.2

答えは、民衆が新しい政府を支持したとき、戦争は終わります。

もしも民衆の心に、新政府に対する反感が強く残っているならば、戦争はいつ再燃してもおかしくはありません。あなたが民衆の信頼を勝ち取ったときに、戦争は本当の意味で終わるのです。

したがって、敵を殺すことは控えなければなりません。その代わりに、あなたは、あなたの敵が欲するものを、また、彼らにとって最も価値あるものを、彼らが望むままに与えてやらなければなりません。そうすることで、彼らを心服させることができ、信頼を得ることができるでしょう。その結果として、あなたは勝利をつかむことができます。

しかし、そんなことが本当に可能でしょうか。

4.3

ナチスドイツや、大日本帝国の統治下にあった人々に対しては、彼らの望むものを与えてやることは簡単でした。ただ、彼らの政府を倒せばよかったのですから。しかし現代においては、戦争に勝つことはいっそう難しくなっています。

私に言えるのは、次のことだけです。

大義を失ってはいけません。

大義があれば戦争に勝てる、ということはありませんが、それを失えば確実に負けます。

あなたは、どうすれば戦争に勝てるか、ということを真剣に考えなければなりません。

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