米中戦争

1

資本主義を成り立たせるために、私有財産権や知的財産権を保障する必要はない。それらの権利は、経済とは無関係の政治的要求である。したがって、アメリカの中国への要求は、純粋な内政干渉であると言える。

いまアメリカが中国に突き付けている要求は、実現不可能なものである。中国は、社会主義を信奉しているから、あのような体制になったわけではない。あれが中国の本来の姿なのだ。無理に体制の転換を強いるならば、中国は崩壊するしかなくなるだろう。それがアメリカに与える影響は、それほど大きくはないかもしれない。しかし、日本に与える影響は甚大である。アメリカがやっていることは、アメリカの利益にはなるかもしれないが、日本の利益には決してならない。

また、米中の貿易戦争によって利益を得るのが誰なのか、ということにも注意してもらいたい。中国製品に関税をかけることで、損をするのはアメリカの消費者である。関税収入の増加によって、得をするのはアメリカ政府である。アメリカ政府がやっていることは、アメリカ国民の利益を減らし、アメリカ政府の利益を増やす、ということである。

どうしてアメリカ国民は、政府のこのような方針に黙って従っているのだろうか。それは、アメリカ国民が、大統領の奴隷だからである。彼らは、主人の言うことならば何でも従う。

アメリカという国家には、全く自由がない。むしろ、中国人の方が自由である。なぜならば、中国人は、中国が独裁国家であることを知っている。それに対抗する術も知っている。他方でアメリカ人は、アメリカが独裁国家だということを知らないし、それに対抗する術も知らない。

しかし、だから中国が勝つ、とは言えない。アメリカは全体主義国家なので、アメリカ国民とアメリカ政府は一心同体である。アメリカ国民は、自分たちの利害が、アメリカ政府と一致すると思い込んでいる。だが、中国人はもっと冷静である。個々の中国人は、中国政府からは独立している。彼らに愛国心はない。彼らは常に、自分一人の利益を計算して動いている。つまり、アメリカが対決しているのは、中国という国家ではなく、習近平という個人である。その点を、アメリカ人はどれだけ理解できているだろうか。

日本はかつて、その点を見誤り、失敗した。アメリカが同じ轍を踏まないことを願う。

1.1

中国人は一見愛国的に見えるが、それは、そう見えるように振る舞っているだけである。中国人が本当に愛国的ならば、政府が検閲を行う必要はない。現に、アメリカ政府は全く言論統制を行っていないが、アメリカ国民は非常に愛国的である。

中国人が愛国的なのは、そうしないと政府に目をつけられ、自分が損をするからである。愛国的な中国人というのは、矛盾した表現である。

1.2

アメリカ政府は、中国政府が自国のハイテク企業に補助金を出し、技術開発に努めていることに不満を抱いているらしい。

しかしアメリカも、昔から同じことをしてきたのではないか。アメリカ発のイノベーションの一部は、DARPAが開発したものであろう。DARPAの研究成果は公開されているが、公的資金によって自国の産業を育成するという点では、中国のやり方と変わらない。

アメリカの中国批判は、揚げ足取りにすぎない。というより、同族嫌悪であろう。

2

昔から中国の皇帝は、自分で工房を経営するなどして、営利活動に勤しんできた。つまり、皇帝自身が一人の商人だったのである。中国王朝の本質は営利企業であり、利潤の追求を唯一の目的としている。中国における国家とは、商人の連合体のようなものである。だから、中国人には公私の区別がない。中国における公とは、皇帝の私有物を意味している。しかしそれは、国の全てが皇帝のものだという意味ではない。

現代的な意味での公的な権力は、かつて中国には存在したことがないし、今も存在しないし、これからも存在しないだろう。むしろ、自分の利益を追求するためには、お互いに協力したほうが効率がよい、という打算の上に秩序が成り立っている。利潤の追求という共通の目的のために、人民全体が協力態勢にある、ということが、中国における国家である。

3

中国人は国家に対して、いかなる幻想も抱いていない。だから、国のために命を捨てるということはありえない。

中国の軍隊は、基本的に内向きのものである。国内の治安を維持することが、軍の第一の目的である。したがって、日本が中国に侵略される心配はない。全くないというわけではないが、可能性は低い。

もしも人民解放軍が外国に打って出るならば、中国国内には力の空白ができる。そこで何が起きるかは未知数である。軍事力だけが、中国に秩序をもたらすことができる。たとえ中国共産党といえど、それは例外ではない。ゆえに、下手に外国と戦争をすれば、共産党の体制そのものが崩壊しかねない。共産党の支配は、解放軍によって支えられているのである。

民衆は、それが自分の利益になると判断する限りで、共産党を支持しているに過ぎない。共産党ですら、常に背後から狙われている。中国には絶対的なものは存在しない。政治的な安定は常に一時的なものである。

良くも悪くも、これが中国社会の実相である。今のところ、中国はよく治まっているのだから、むやみに刺激するべきではない。もしもアメリカが、中国社会は崩壊しても構わない、と考えているのならば、我々がアメリカを抑えねばならない。中国と日本は運命共同体である。中国の平和がなければ、日本の平和はありえない。

4

誰も中国に勝つことはできない。なぜならば、そもそも中国という国家は存在しないからである。それは、自分は中国の外側にいると考える者が見る、幻に過ぎない。

我々はいつでも、中国人と同じ土俵に立たされている。中国に戦争を仕掛けるということは、自分も中国のルールに従い、中国人になるということである。中国に勝つということは、自分が中国の皇帝になるということである。一人の中国人に敗北を認めさせるということは、それ以外のすべての中国人に喧嘩を売るということである。自分も、中国社会の終わりのない闘争に巻き込まれるということである。

もしかすると、アメリカ人にはその資格があるのかもしれない。私は中国を恐ろしいと思うが、彼らはそうではないかもしれない。中国には、地獄から天国まで、全てのものがそろっている。限度というものがない。

私ならば、このパンドラの箱をあえて開けようとはしない。今はおとなしくなっているのだから、そっとしておくべきだろう。アメリカ人がそれを開けようとするならば、日本人は全力で阻止するべきだと思う。

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