遺伝子の発現

 個体の成長において、遺伝子はどのような役割を果たしているのだろうか。
 生命体の成長がすべて、どのタイミングでどの遺伝子がどれだけ発現するか、ということによって決まっているのだとすれば、最も重要な問題は、遺伝子が発現するタイミングを決めているのは何か、ということになる。
 最近の発生学では、染色体上の遺伝子の発現は、その上流にあるプロモーター領域によって調整されているとされる。プロモーターに転写因子が結合したときに、遺伝子の転写が開始される。そして、その転写因子自身も、他の遺伝子によってコードされているのだという。では、転写因子の発現は、何によって制御されているのだろうか。

 もしも、ある転写因子の発現が、別の転写因子によって制御されているのだとすると、さらに、その別の転写因子の発現が何によって制御されているのか、という問題が生じるだろう。それもまた別の転写因子によって制御されているのだとすれば、結局、無限個の遺伝子がなければ、一つの遺伝子の発現を説明できなくなってしまうだろう。
 しかし、実際には遺伝子の数は有限なのだから、この考えは誤りである。ゆえに、遺伝子が発現するタイミングを決めているのは、遺伝子ではありえない。むしろ、細胞内外を問わず、遺伝子を包み込む環境がそれを決めていると考えるべきだろう。

タイトルとURLをコピーしました