記憶の不思議

ときどき、魚の名前をよく記憶している子供がいて、どんな魚も漢字で書けたりする。あるいは、虫の種類や恐竜の種類などを、瞬時に見分ける博物学者がいる。彼らがどれだけの知識を持っているのか、常人には見当もつかない。

このように人間の場合、知識の量が増えれば増えるほど、新しい知識を記憶しやすくなる傾向がある。ところが、パソコンのハードディスクなどはこれと逆で、記録したデータの量が増えれば増えるほど、新しく保存できる容量は少なくなる。これを不思議に思う人もいるだろう。人間の記憶容量は無限に大きいのだろうか。


子どもの脳に含まれるニューロンの数は、大人の脳とほとんど変わらないという。しかし、記憶の量は全く違う。子どもは大人ほど多くの知識を持っていないし、自分が経験した記憶も持っていない。

では、子供の脳と大人の脳で何が違うかといえば、ニューロン間の結合の仕方が違うのである。ニューロン同士はシナプスを通して結合しているが、子供の脳では、その結合はランダムである。その後、様々な経験を通して知識や記憶が増えてくると、結合が変化して、適切な知識を構成するようになる。

これは、電化製品の配線を想像してもらうと分かりやすい。家に電化製品が増えると、配線の数も増え、それが絡まってごちゃごちゃになってしまう。そこで、配線を一つ付け替えようとすると、どこに何をつなげればよいのか分からなくなる。しかし、あらかじめ配線を整理して、きれいに並べておけば、その中の一つを付け替えることは容易にできる。

そのように、ニューロン間の結合を一つの配線として考えてみると、知識が多い状態は、配線がきれいに整っている状態である。一方で、知識が少ない状態は、配線がごちゃごちゃで、ほとんどランダムにつながっている状態である。したがって、知識が多い状態の方が、知識を一つ増やすこと、つまり配線を一つ付け替える作業が、より簡単になることが分かる。ゆえに、知識が少ない状態よりも、知識が多い状態の方が、より多くの新しい知識を短時間で記憶できることになる。


プラトンは、人間は知識を忘れた状態で生まれてきて、あとからそれを思い出すのだ、と言った。それは正しい理解である。人間の脳には、あらかじめ知識の種が詰まっている。これから知識になりうるが、まだ知識になっていない種のようなものが、人間の中には含まれている。

子供の脳は、すべての色が混合した灰色の状態である。それが長ずるにしたがって、一つ一つの色が区別できるようになり、大人になると虹色があらわれる。知識をつけることで人間の脳は発達し、より純粋で美しい状態に近づく。それが学問の効果である。

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