なぜナチスはソ連に侵攻したのか

原因を尋ねる

少し古い話かもしれないが、中田敦彦のYouTubeが、フェイク情報を流したとして問題視されたことがある。とくに現代史のくだりで、ナチスがソ連に侵攻した理由を間違えている、という指摘が気になった。

中田氏の動画によれば、ナチスは、ソ連と共にイギリスに侵攻するつもりだったが、ソ連の動きが不審だったので独ソ戦を始めた、という話になっている。一方、ライターの石動竜仁氏は、この説明が間違いだと指摘している。氏によれば、ナチスは初めから独ソ戦を行うつもりで準備を進めており、ソ連の動きに応じて戦争を始めたわけではない、とのことである。

それはその通りだと思うが、その説明は、なぜナチスがソ連に侵攻したのか、という問いに答えていない。私は、中田氏の説明が誤りであることは認める。しかし彼の間違いが、誰にでも犯しうる性質のものであることも指摘しておく必要がある。石動氏の説明は事実としては正しいが、そこには理由が欠けている。理由とは、なぜその現象が起きたのか、という原因の説明であり、それを追究してゆくことが歴史の本質である。ゆえに、中田氏の誤りは歴史の本質に迫るものであると言える。

スラブ人差別

中田氏の説明は合理的であり、それゆえに誤りやすい点である。では実際のところ、どうしてナチスはソ連に侵攻したのか。この点を明らかにしなければ、正当な批判にはなりえない。

ナチスがソ連に侵攻した背景には、スラブ人に対する差別意識がある。優秀な民族であるゲルマン人は、劣った民族であるスラブ人を征服する権利がある。このような考えの下で、ヒトラーはドイツ人の生存圏を確保するためにソ連を侵略することに決めた。この点をちゃんと説明しないと、ナチスがソ連に侵攻した理由が分からず、同じ間違いを犯す人が今後も出てくるだろう。

ナチスに関しては、そのユダヤ人差別を取り上げる人が多いが、スラブ人に対する差別も大きな問題だと思う。この問題をスルーする歴史家が多いのは、西側諸国においては、スラブ人が劣等人種であることは周知の事実だからであろう。ゆえに、それをわざわざ独ソ戦の理由として挙げる必要はない、ということである。このような人種差別が欧米社会に広く行き渡っているために、歴史家がその説明を無意識に省いてしまい、結果、ヨーロッパの人種問題に疎い日本人が、上述のような誤りを犯してしまう。これはいちYouTuberの責任というよりは、歴史家全体の責任であろう。

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