ガラパゴス化する新型ウイルス

いままでに何度も述べたことだが、繰り返し述べる。新型ウイルスの感染を予防するべきではない。このウイルスの流行を早期に終わらせたいのであれば、感染を拡大させる必要がある。現在各国政府が行っている政策は、かえって流行を長引かせる可能性がある。

ガラパゴスフィンチという鳥がいる。ガラパゴス諸島のいくつかの島に、スズメのような小鳥が住んでいる。それらの鳥は、もともとは同じ種類の鳥だったが、島の環境に適応するうちに、別の種類に進化してしまった。どうして進化が起きたかというと、それぞれの島が、海流によって他の島と隔離されていたからである。もしも、島と島の間を移動する手段があれば、フィンチは種分化しなかっただろう。

現在世界中で起きている現象は、このフィンチの進化と同じである。各国政府は渡航制限を設け、新型ウイルスを国内に閉じ込めようとしている。それによって、それぞれの国の中で、ウイルスが独自に進化を遂げている可能性がある。いま各国がワクチンの開発を急いでいるが、もしもウイルスの種分化が進んでいるならば、イギリスのウイルスで作ったワクチンが、日本のウイルスに効くとは限らない。なぜならば、それぞれのウイルスが、すでに別の種に進化しているからである。つまり現在の世界には、複数種類の新型ウイルスが併存している可能性がある。

スウェーデンの集団免疫戦略は高く評価されるべきだが、一国だけでは十分ではない。世界中で集団免疫の獲得に舵を切らなければ、新型ウイルスの影響はより長期化するだろう。我々が何よりも優先するべきは、ウイルスの性質を安定させることである。いくらワクチンを開発しても、ウイルスの方が進化してしまえば何の役にも立たない。ウイルスが一定の性質を示すようになって初めて、ワクチンの効果も期待できるようになる。

ウイルスの進化のスピードは、その増殖の速さによって決まる。増殖が速ければ速いほど、進化のスピードも速い。ゆえに、ウイルスの性質を安定させるためには、増殖の速度を遅くする必要がある。ウイルスの増殖が速いということは、より多くの人間に感染を拡大しているということであり、ウイルスの増殖を遅くするためには、感染のスピードを遅くする必要がある。それは、人類が免疫を獲得して初めて可能になることである。つまり、集団免疫を獲得しない限り、ワクチンは解決策にはならないだろう。

また科学者は、ウイルスの塩基配列を比較することで、進化の速度を計測しようとしているらしいが、遺伝子はRNAだけには限らないことに注意すべきである。たとえば、エピジェネティクスが明らかにしたことは、塩基配列によらない遺伝がありうるということである。エピジェネティックな修飾は塩基配列には反映されないが、形質の遺伝を可能にする。ゆえに、塩基配列が同一だからといって、表現型が同一であるとは限らない。塩基配列によらない方法でウイルスが進化している可能性も、考慮しなければならないだろう。

科学者は、明確な証拠がなければ、これが事実であると断言することはない。だが現実には、証拠が集まった時にはもう手遅れになっている。ゆえに、政治は、明確な証拠がない段階で対策をとらなければならない。証拠が集まってから行動を始めても遅いのである。

世間ではエビデンスを求めることが流行っているが、それは何の役にも立たない。科学者が証拠を集めるためには、仮説が必要である。仮説に基づいて検証を行うことで、必要な証拠を集めることができる。つまり、証拠が見つからない前から、何が事実であるかを知ることができなければ、証拠を集めることはできない。事実の認識は証拠に先行するものである。

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