安倍政権の総括

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安倍晋三が総理を辞任したという。世間では後継者争いに注目が集まっているが、それよりも、彼の政治を評価し直すことの方が重要であろう。

既に指摘した通り、安倍晋三には、内閣総理大臣の仕事を遂行するために必要な能力が欠如していた。彼の管轄下にある公官庁で不正が多発したことは、その管理能力の欠如を物語っている。

だがそれ以上に、国民が彼を支持し続けたことが問題である。日本国民はもはや、政治家の責任を問うことすらできなくなっている。それほどまでに知性が低下してしまっているのである。それは、無力な野党と自民党一強という構図にも現れている。国民が自分の力で政治を選ぶことができないということ、権力になびくことしかできないということが、真の問題である。

どうしてここまで日本人の知性が低下してしまったのかというと、古典を読まないせいである。人間の知性は古典を読むことによって養われる。それを怠ってきたツケが、いま表に出てきたわけである。ヨーロッパの学問をいくら学んでも仕方がない。あれは獣の学問である。そこからは、現実にどこまでも服従するだけの、動物のような人間しか出てこない。

私の言う古典とは、孟子のことである。中国や日本の古典である。現実を変えるためには理想を持たねばならない。その理想を我々の心に植え付けてくれるものは古典しかない。古典こそが人間の力となり、その精神を強靭なものとしてくれる。古典を知らない人間は動物と変わりがない。

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安倍は保守だと見なされることが多かったが、彼の政権は、過去に例がないほどリベラルなものだった。たとえばトランプ大統領は、保守的でナショナリストだと言われる。トランプ政権はTPPを拒否し、保護貿易を押し進め、グローバリズムを否定する態度をとり続けた。一方で安倍内閣は、TPPを推進し、経済のグローバル化に賛成し、日本社会を国際標準に合わせることに腐心してきた。女性の社会進出も、彼の功績として認められるべきだろう。

安倍は、いまだかつてないほどリベラルな政治家だった。その点を踏まえると、欧米において彼の評価が高いことも頷ける。日本のリベラリストたちは、安倍は民主主義を破壊した、として彼を非難しようとする。しかしむしろ彼こそが、日本に民主主義を根付かせたのではなかったか。彼こそがリベラリズムを体現していたのではなかったか。日本民主主義の集大成が、安倍晋三という政治家だったのではないか。

つまり、民主主義とはその程度のものである。民主主義は、安倍のような無能な政治家しか生まない。一部の人々は、民主主義に過度の期待を抱いているようだが、それは実際には、日本社会を破壊するものでしかありえない。昔の自民党がよかったと言われる理由は、その頃は、まだ日本に民主主義が根付いていなかったからに他ならない。民主化の程度が進めば進むほど、ろくでもない政治家しかいなくなるのである。

既に述べたように、安倍とメディアの対立は、リベラリストの内ゲバにすぎない。メディアの側は、民主化が進めば素晴らしい社会が実現すると思い込んでいたのに、実際に出てきたのは安倍晋三だったので、その怒りが彼に向けられてしまった。一方で安倍の側には、リベラリズムを実現しているという自負があるので、メディアが彼を引きずりおろせないことをよく理解していた。要するにどっちもどっちである。

また、安倍とトランプを比較するのも面白い。両者は仲がよいことで知られているが、政治の方向性は真逆である。安倍は日本のリベラル化を推し進めたが、トランプは逆にアメリカの脱リベラル化を推し進めたと言える。これによって、日本とアメリカの政治的な格差が縮まったと言えるかもしれない。つまり、日本の政治はアメリカに近づき、アメリカの政治は日本に近づいたわけである。もちろんこれは正確な言い方ではないし、トランプが日本的だと言うつもりもない。しかし、アメリカが日本に与えた影響だけではなく、日本がアメリカに与えた影響についても考えてみなければならない。ひょっとすると、日本がアメリカの真似をするのと同じくらい、アメリカも日本の真似をしているのかもしれない。

リベラリズムは根本的に誤った政治思想であり、そのような思想に基づいた政策は実行されるべきではない。どうしてそれが誤りだと言えるのかは、これまで種々に論じてきたので、過去の記事を参照してほしい。安倍政権を擁護する者も、リベラリズムを擁護する者も、私はどちらの主張も論破し尽すつもりである。しかし、リベラリストと議論を戦わせるのは難しい。というのも、彼らはいつも熟議が必要だと言うが、彼ら自身が、リベラリズムを否定する人間と議論をしようとしないからである。実に卑怯な連中である。

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国家と政治を私物化し、国民と官僚に自らを崇拝することを要求した安倍晋三は、まるで自分を日本国王だと思い込んでいたようにも見える。仕えるべき主君を見失い、忠義も忠誠も打ち捨てて思い上がった愚か者がどこまで醜悪な姿を晒すことができるのか、彼の政治は後世の教訓とされねばならない。東条英機の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいである。

憲法に国防軍を明記し、その司令官に自分を指名させようとした彼の傲慢は、犯すべからざる権威を敢えて犯そうとした愚行として永久に記憶されねばならない。日本国の軍隊が誰のものであるか、将兵が誰に忠誠を誓うべきか、この国に生きる者に分からないはずがなかろう。安倍晋三の名前は、日本に民主主義とリベラリズムの徒花を咲かせた政治家として永く歴史に刻まれるだろう。願わくば、それが一過性のものに留まってくれればよいのだが。

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