獲得形質の遺伝

 最近の生物学では、エピジェネティクスが一つの分野として確立されつつあるらしい。だがそれは、明らかに獲得形質の遺伝の可能性を示唆している。

 たとえば、ある遺伝子に対するエピジェネティックな抑制が、何世代も続いたとしよう。エピジェネティックな修飾によって、その遺伝子の発現が完全に阻害されていたとしたら、遺伝子本体に有害な変異が生じたとしても、個体には何の不利益ももたらされないだろう。
 しかし、有害な変異が生じてしまった後で、エピジェネティックな修飾が失われ、その遺伝子が発現可能な状態になってしまったとしたら、個体の生存に不利益がもたらされることになるだろう。したがって、任意の遺伝子に対して、エピジェネティックな抑制の効果が何世代も続いた場合に、染色体本体に不可逆的な変化を生じさせ、その遺伝子を発現できないようにする何らかの機構が存在するならば、それは個体の生存に有利に働くはずである。

 ダーウィンはすでに『種の起源』第五章などにおいて、個体の生活条件が生殖系列に及ぼす影響が、進化の過程で重要な役割を演じている可能性を指摘している。一方で、生殖系列におけるエピジェネティックな修飾が、親の生活条件によって生じることはよく知られている。
 よって、上に述べたような機構の存在を仮定するならば、ダーウィンのこの指摘をよりよく理解できるようになるだろう。これは同時に、限定的にではあるが、獲得形質の遺伝の可能性を示しているといえる。

<参考>
STAP 細胞

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