原子力の安全な利用について

1 はじめに

原子力発電は、火力発電と違って、二酸化炭素を排出しない発電方法として知られています。ゆえに、地球温暖化を防止するためには、火力発電に代えて原子力発電を利用したほうがよい、ということは広く認識されています。しかしながら、日本人の多くは、原子力発電を好ましくないと考えています。どうしてでしょうか。

それは、原子力発電が危険だからです。

 一つには、事故を起こした際の被害が大きい、ということ。

 二つには、放射性廃棄物の危険性が大きい、ということ。

この二つの危険があります。そして、原発が事故を起こしうるものであることは、福島第一原子力発電所の事故によって、明確に認識されることになりました。したがって、もしも原子力の安全な利用法が確立されれば、それを拒否する理由もなくなるものと思われます。

2 原発の事故対策

まず、一つ目の問題を検討しましょう。解決策は二つに分けられます。

 一つ目の解決策は、原発の設計を見直し、安全性を高めること。

 二つ目の解決策は、事故が起きた場合の対処方法を見直すことです。

2.1 安全な原発の開発

一つ目の解決策は、核燃料をいかにして冷やすか、という問題と関係しています。福島原発の事故は、崩壊熱によって引き起こされたものです。崩壊熱とは、臨界反応が止められた後も燃料が熱を出し続ける、という核燃料特有の性質です。

正常な運転をしている原発では、発電を止めた後でも、冷却水を流し続けることによって、崩壊熱を冷まし、事故を防いでいます。しかし何らかのトラブルによって、冷却水を流し続けることが難しくなると、燃料が熱暴走し、メルトダウンが起きてしまいます。

原発の安全性を確保するためには、反応を終えた燃料が、人の手を加えずとも、自然に冷えてくれることが望ましいと言えます。そのためには、軽水炉以外の発電形態を考えるか、あるいは、原発の規模を小さくし、崩壊熱の発生量を抑える必要があります。後者の場合、更に、外部環境との熱循環の方法を考えなければなりません。

いずれにせよ、現行の原子力発電所の設計では、この解決策は実現できません。新しい原発を開発する必要があるでしょう。

2.2 適切な危機管理とは

二つ目の解決策は、事故が起きた際に被害を抑える方法を考える、ということです。

まず、福島原発の事故が、どうしてあそこまで深刻化したのか、ということを考えてみましょう。主な原因は、原発で使用する燃料のサイズが大きく、そのために崩壊熱の発生量も大きくなり、熱暴走を起こしてしまった、ということです。

そのほかに、原発の運用思想も原因であると思われます。原発の運用においては、暗黙のうちに、核燃料を外に漏らしてはならない、ということが絶対条件として考えられています。しかし、事故が深刻化した理由を考えてみると、まさにその考え方こそが問題であることが分かります。

事故の主原因は、崩壊熱が大きくなりすぎたことでした。そして、一か所に集められる核燃料の量が増えれば増えるほど、熱量が大きくなることは明白です。

しかし、燃料を漏らしてはならない、という条件が意味することは、燃料を一か所に集めて閉じ込めろ、ということに他なりません。ゆえに、燃料を漏らさない、という原発の運用の仕方が、結果として崩壊熱を増大させ、事故をここまで深刻化させるに至った、と言えるのです。

では、事故の深刻化を防ぐためには、どうすればよいでしょうか。

考えられる対応策は、事故が深刻化する前に、自発的に燃料を漏らす、ということです。

炉心の暴走が起こりそうだ、と判断された場合、制御不能になる前に、燃料を細かく分けて格納容器外に放出します。そうすれば、一つ一つの破片のもつ熱量は小さくて済みます。また、燃料を露天に曝すことで、熱を冷ますことも容易になるでしょう。さらに、事故の後処理を行う際の困難も減るものと思われます。

福島原発一号機では、巨大なデブリの存在が事故処理を難しくしています。しかし、今述べたような対処を行うならば、そのような問題は生じなくなるでしょう。

2.3 デブリを爆破せよ

また、この考え方を応用するならば、デブリの処理にも道が開けるかもしれません。

デブリの処理が難しいのは、それが強力な放射線を発しているからです。そして、それが強力な放射線を発しているのは、大量の放射性物質が一か所に集まっているからです。したがって、デブリを安全に処理するためには、デブリを分解すればよいのです。

一つの案として、デブリの爆破が考えられます。

どういうことかと言えば、遠隔操作ロボットを使って、デブリの中心部に大量の爆薬を持ち込み、デブリ全体を爆破します。内側から爆発させることで、デブリを細かい破片に分解することができます。また、爆風によって破片が散らばるために、デブリ周辺の放射線量は薄められるでしょう。そうすれば、今よりも処理は易しくなるはずです。

もちろん、この通りの処置を行う必要はありません。爆発によって何が起きるかわかりませんので、今まで通り慎重に作業を進めたほうがよい、という意見もあるでしょう。

しかし、考え方は間違っていないはずです。放射性物質は、一か所に集めておくから危険なのです。それを安全に取り扱うためには、ばらばらに分解してしまうのが最もよい方法です。

2.4 事故の教訓

ここで述べたことは緊急処置にすぎません。事故を起こさないことが第一であることに変わりはありません。しかし、それを運用する者の心の持ち方によって、事故の可能性は変わってきます。

絶対に漏らしてはいけない、という考え方は、人の心を縛ります。そのように考えてしまうと、自由に動けなくなってしまいます。むしろ、漏らしてもよい、と考えたほうが、自由に動けるはずです。そして、自由に行動できるということが、事故の確率を減らすでしょう。

失敗した人間を指さして笑っているようでは、社会全体の成長は望めません。

恥をかく勇気が必要です。恥をかく勇気があれば、失敗した人間を笑うことはできなくなります。それが本当の進歩です。

3 核廃棄物の処理

3.1 二段階の処理

次に、二つ目の問題に移ります。

原発を運用することで、大量の放射性廃棄物が発生します。これをどのように処理すればよいか、ということが大きな問題となっています。

この問題について考える場合、廃棄物を二種類に分けて考える必要があります。

一つ目は、セシウムやヨウ素などの、寿命の短い放射性物質です。だいたい数十年で崩壊するものです。

二つ目は、プルトニウムやネプツニウムなどの、寿命の長い放射性物質です。これらは一万年以上の寿命を持ちます。

放射性廃棄物の処理に関しては、二つの段階に分けて考えるべきだと思います。まず、プルトニウム等の寿命の長い元素を、寿命の短い元素や、より安定な元素に変換する段階です。次に、寿命の短い元素の処分を行います。

廃棄物の地層処分ということが言われていますが、それは論外です。プルトニウムを含む廃棄物が無毒化するまでには、十万年以上の時間が必要です。そのような長い時間にわたって、人類が放射性物質を管理し続けるということは、事実上不可能です。言葉の上で約束することは簡単ですが、それは嘘をつくことと同じです。

地層処分を正当化するためには、廃棄物を構成する放射性物質の寿命を、短く抑えなければならないでしょう。そのためには、プルトニウムを他の元素に変換する技術、いわゆるプルトニウムを燃やす技術を洗練させなければなりません。

3.2 プルトニウムの焼却

核開発とは何でしょうか。

核開発、という言葉が意味することは、プルトニウムを作る、ということです。第二次大戦中のアメリカで行われたマンハッタン計画により、人類の核技術は大きく進歩しました。この計画によって、プルトニウムを製造する技術が確立されたと言えます。

しかしながら、それは、人類が持つべき核技術の半分でしかありません。残りの半分とは、プルトニウムを捨てる技術です。プルトニウムを焼却する技術が完成されて初めて、人類の原子力技術は完成したと言えます。新しい時代の核開発とは、プルトニウムを焼却する手段を開発することです。

3.3 兵器としてのプルトニウム

この問題は、原子力の、発電のための利用に限るものではありません。原子力の兵器としての利用を考える場合にも、このことは大きな意味を持ちます。

核兵器の放棄、ということがよく言われますが、これは口で言うほど簡単なことではありません。なぜならば、捨てようにも捨てられないからです。

核兵器の燃料として主に使われているのは、プルトニウムです。しかし、それを捨てる技術がまだ存在していません。ゆえに、核兵器の放棄は事実上不可能です。現在我々が置かれている困難な状況は、すべてここに原因があります。

核兵器を保有している国々は、なぜかは分かりませんが、それを手放すことを嫌がります。人道的な観点からは、それを手放すことが望ましいのですが、同時に彼らは、それを手元に置いておくことを望みます。ゆえに彼らにとっては、プルトニウムを焼却する手段は、存在しないほうがよいのです。

本当は手放したいが、そうするための手段がないのだ、ということが、彼らにとっての言い訳になります。それによって、人道的な仮面を被りつつ、核兵器を保有しておくことが可能になります。

おそらく、このような政治の在り方が、無意識のうちに、新しい技術の開発を抑制し続けてきたのではないでしょうか。

プルトニウムを焼却することは、原理的には可能です。技術的に難しいと言われていますが、不可能ではないはずです。

我々には、マンハッタン計画のように、新しい技術を生み出すことが期待されています。新しい計画は、地球上に存在する全てのプルトニウムの焼却をその使命とすることになるでしょう。大げさに言うならば、この計画には人類の未来がかかっています。

3.6 世界の物理学者へ

個人的な提案ですが、できるだけ多くの科学者に、原子力の問題について研究を行ってほしいと考えています。

素粒子物理学は、いったん終わりにしてもよいのではないでしょうか。すでにヒッグス粒子は見つかっています。もっと実用的な研究に集中してほしい、というのが、私の率直な思いです。東北にリニアコライダーを作っている場合ではないと思います。

4 核の抑止力

最後に、核の抑止力について考えてみましょう。核攻撃に対する最も強い抑止力とは、何でしょうか。

それは、核を持たないことです。なぜならば、核を持たない国に対して、核攻撃を行う理由がないからです。もしもそのような攻撃が行われた場合、その行為をどうやって正当化すればよいのか、私には分かりません。

また、相手に核兵器を使わせないために核兵器を作るのだとすると、どちらの側にも、はじめから核兵器を使用するつもりがないことになります。どうせ使わない兵器ならば、無くても同じです。

核兵器を保有すること自体、コストがかかります。また、プルトニウムが存在することによる潜在的な脅威もあります。核兵器を所有することによるメリットが、一体どこにあるのでしょうか。

人を殺したいのならば、マシンガンで十分用は足ります。結局のところ、面と向かって殺し合いをするほうが、人間の性に合っているのでしょう。核攻撃だけで戦争が終わってしまったら、かえって物足りないかもしれません。

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