飲酒詩

いま青木正児著『中華飲酒詩選』を読んでいる。漢詩を読むと憂さが晴れる。とくに李白の飲酒歌は底抜けに明るく楽しい。

君見ずや高堂の明鏡 白髪を悲しむ
あしたには青糸のごとく 暮れには雪となる。
人生 意を得てすべからく歓を尽くすべし
金樽をして空しく月に対せしむるなかれ。

杜甫の堅苦しい歌もいいが、李白の楽天的で自堕落な歌も悪くない。白楽天は人柄が温かく、同じ酒好きでも李白とは毛色が違う。李白は仙人のようでどこか突き放した感じがするが、白楽天には親しみを覚える。

青雲に上り去るなかれ
青雲は愛憎するに足る。
自ら賢として智慧を誇り
相いあつして効能を闘わす。
魚のらんするはを呑むによる
蛾のしょうするは燈を撲つためなり。
如かず 来りて酒を飲み
性に任せて酔とうとうたるに。

高位高官となって名利を求めれば、熾烈な競争で身も心もすり切れるだろう。それよりもここで酒を飲もうではないか、と。彼の歌にはどうにも人間愛がある。

酒といえば陶淵明だが、彼にはときどき胸をかきむしりたくなるほど切ない歌がある。

へんぺんたる飛鳥
我が庭いこう。
かくおさめてしずかにとどまり
好声 あい和す。
豈に他人なからんや
を念うことまことに多し。
おもうてわれ 
恨を抱くこと如何。

庭の木に鳥がとまり、楽しげに鳴き交わしている。ここにも友がいないわけではないが、君を思うことが多い。思っても会えないつらさをどうしよう。

ここで歌われている「子」が誰なのか私は知らないし、具体的な誰かがいるわけではないのかもしれない。そのために余計痛切さが増す。

それにしても詩のチョイスがよく、いい本である。

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