ウクライナに侵攻したロシア軍は着々と支配領域を広げている。ウクライナ軍は善戦しているが、少しずつ領土を切り取られているのが現状である。NATO加盟国からの援助はロシア軍を苦しめているものの、もともとの国力差を考えれば、ウクライナが押し負けるのは自然である。
2021年のロシアのGDPは1.7兆ドル、ウクライナのGDPは0.16兆ドルで、約10倍の開きがある。これほどの国力差がある相手と戦うには、どういう戦略をとるべきだろうか。
ここで、これを太平洋戦争と比較してみたい。太平洋戦争が始まる前の日米の国力差に関しては、為替レートの変動があるため正確な比較は難しいが、一説によればGDP比で10倍近い開きがあったとされている。いまのウクライナとロシアの力関係に近い。したがって、両者を比較することで何らかの教訓が得られるはずである。
まず、太平洋戦争のときに日本がとった戦略を、ウクライナ戦争になぞらえて考えてみよう。
日本はアメリカとの緊張関係が最大限に高まったときに、真珠湾攻撃を行い、大東亜戦争を開始した。開戦早々、日本軍はアメリカの領土であったフィリピンを奪い、ここに防衛線を築いている。
ウクライナ戦争の場合、ウクライナとロシアの緊張関係が最高潮に達したときに、ウクライナ軍が突如ロシア領に侵攻し、ロシアの領土を大きく切り取ってしまう。そこに防衛線を築いて、ロシア軍を迎え撃つのである。
虚を突かれたロシア軍はいったん総崩れとなり、態勢を立て直して反撃を開始するが、ウクライナ軍は頑強な抵抗を続け、ロシア軍は少しずつしか領土を取り返せない。
ようやくウクライナ軍を本来の国境線まで押し戻したときには、3年半の歳月が経過し、ロシア軍の体力は尽き果てていた。そこで終戦となり、ウクライナは領土を守ることができた、めでたしめでたし。これが太平洋戦争である。
ウクライナ軍はロシア領に侵攻することで侵略戦争の汚名を着せられることになるが、そうすることで国土を守ることができたかもしれない。名をとるか実をとるかという問題で、日本は実をとって成功した。ウクライナは名をとって実を失ったのである。
弱国であるウクライナは、ロシア軍の圧力を押し返すことができない。したがって、ロシア軍を後退させるためには相手の虚を突くしかない。つまり奇襲攻撃である。そうして相手が後退したところで自軍の守りを固めれば、戦争を有利に進めることができる。
言うは易し行うは難しで、こうして比較してみると、日本軍がどれだけ優れた軍隊だったかが分かる。戦略を学びたい者は日本軍の戦史を研究するべきである。
ここで、この比較を適切ではないと批判する人がいるかもしれない。なぜなら、当時のアメリカには日本を侵略しようという意図はなかったのだから、と。
これに関しては、証拠がないので何とも言えない。当時のアメリカ政府に日本侵略の意図がなかったことを証明することはできないし、あったとしてもそれを巧妙に隠しただろう。それ以上に、日本政府にはそんなことを知る術はないので、最悪のケースを想定しなければならないのである。彼我の国力差は大きく、アメリカが日本を侵略しようとすれば、簡単にできてしまう。
そもそも、アメリカは米墨戦争や米西戦争など、戦争によって領土を増やしてきた歴史がある。ゆえに、日本に対しても同じことを企んでいないという保証はない。そう考えると、日本侵略を未然に防ぐために、あえて日本から打って出るという選択肢もありえたわけである。
これ以上の考察は「亜米利加物語」にゆずろう。