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危機管理とは、何をすることだろうか。
危機が起きてから、その対処を考えていては遅い。対処を考えている間に、現実の危機はどんどん進展しているからである。したがって、起こりうる危機を予想し、あらかじめ対処法を準備しておくほうがよい。
しかし、それでもまだ遅い。本当に重要なのは、実際に危機が起きたときに、それが危機であると認識するまでのタイム・ラグである。つまり、あらかじめ危機を予想していたとしても、それを危機であると認識できなければ、対処を行うこともできない。そして、危機が生じた瞬間から、それを認識するまでの間に、現実の危機はどんどん進んでしまうのである。
現在の社会における危機管理は、いま自分は安全な場所にいる、という前提に基づいている。今は安全だけれども、いずれ危機が起きるかもしれないから、そのために準備をしておこう、という発想である。だから、対処が遅れる。今は安全である、という認識が、今は危機である、という認識に変わるまでの時間が、致命的な遅れをもたらすのである。ゆえに、今まで議論されてきたような危機管理の方法は、全く不十分である。
たとえばアメリカ人は、十分な危機管理を行ってきただろうか。もしも、アメリカ人の危機管理法が有効であったならば、九・一一は起きなかったであろうし、真珠湾攻撃も防げたであろう。これらの事件が起きたときに、当事者たちや政府当局が演じた失態は、アメリカ的な危機管理がいかに無力であるかを物語っている。彼らの対応が常に後手に回るのは、先ほど述べたような認識の遅れが原因となっているのである。
自分はいま安全な場所にいる、と思うから、現実に先手を取られる。したがって、自分はいま危機の中にいる、と考えることで、現実の先手を取ることができる。この世界に安全な場所などどこにもないし、人生の中で安心してよい時など一瞬たりともない。そのような意識を持つことで、はじめて、リアルタイムに危機に対処することができるようになる。
危機は、いまこの時に起きている。それが本当の危機管理である。
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日本人はもともと平和を愛する民族だが、売られた喧嘩は必ず買う。そして、相手がそのつもりならば、こちらから先制攻撃を仕掛ける。いかなる勝負でも、先に手を出した方が有利である。だから、機先を制するということが重要である。相手が手を出す寸前に、こちらから手を出す。
その意味では、アメリカほど与しやすい相手はない。アメリカのやり方は、必敗である。百戦戦えば百回負けるだろう。イスラム教徒が相手ならば、彼らも互角に戦えるかもしれない。しかし、我々の敵ではない。