人口減少
いま、日本では人口減少が起きている。中国や韓国でも高齢化、少子化によって人口が減少しつつあり、ヨーロッパも同様の状況である。
一方で、アメリカの人口は順調に増え続けている。アメリカでは出生率の高さに加えて、移民の流入によって人口が増加している。
そもそも、人間が生きるためには衣食住が必要である。食べるものと住む場所と着るものである。基本的に、これらの要素は有限である。
食糧に関しては、人類が利用可能な水資源の量によって、生産可能な農作物の量は制限される。
地球上の生命は、一次生産者である植物の成長によって維持されている。その植物の成長は、太陽エネルギーを消費することで実現されている。実際には太陽エネルギーの一部が植物の成長に使われているにすぎないが、一年間に地表に降り注ぐ太陽エネルギーの量は有限であるから、これが地球生命の最大量を決定している。加えて、植物が生育するためには土地が必要であり、また、光合成を行うためには水が必要である。これら土地と水の量も有限である。
こうした諸々の条件によって地球生命の量は制限されており、人間もその例外ではない。人間の生存に適した環境が維持されていれば、人間は生存を続けることができ、また、繁殖することができる。
しかし、際限なく繁殖を続けることはできない。ある生命体が数を増やすならば、その増えた人口を維持するために、資源の量が減り始める。やがて資源の量が基準値以下に減少すると、生存の条件を失った個体は死滅し、繁殖する力を失う。こうして個体数は減少し、それに伴って資源の量が回復する。資源の回復によって再び繁殖が盛んになり、個体数は増え始める。その後も個体数は振動を繰り返し、平均値の周りを揺れ動くだろう。
人口が減るのはなぜか。
答えは、増えすぎたからである。人口が増えすぎたせいで、人間の生存に適した環境を維持することが難しくなっている。
日本社会はその人口を維持するために、どのような仕組みを作り出したか。彼らは食糧を輸入することで人口を維持している。もしも食糧の輸入が途絶えれば、日本人の半分以上が死滅するだろう。
食糧の輸入には当然コストがかかる。生産者に代価を払って食料品を購入し、それを船で運び、港湾で荷下ろしをし、倉庫に貯蔵し、自動車や列車によって全国各地に送り届ける。そこで問屋が食料品を受け取り、それを小売店や飲食店に卸し、調理が施され、ようやく我々の口に入るのである。
生産地と消費地の距離が遠くなるほどコストは増え、不経済になる。食品の輸送や貯蔵に多くの化石燃料が消費され、温暖化が進む。
また、人口が増えると土地が少なくなる。人間の居住に適した土地は限られているので、人口の増加に伴って人口密度は高くなり、不愉快なことが増える。人口の増加は経済力を強めるので、ある程度の増加は生存を有利にするが、増えすぎると逆に障害になる。
不便を感じることが多くなると、人は自分の力を温存しようとする。何かトラブルに巻き込まれたときに、自分の身を守れるように、できるだけ余裕を持とうとするのである。繁殖は大きなエネルギーを必要とするので、このような状況では自然と避けられるようになる。こうして人口は減少する。
一方で、生産や物流のコストが増えるほど、GDPは増える。GDPは効率の悪さの指標となる。不自然なGDPの増加は人口の減少を招く。
何が人口を決定しているのか、明示することはできない。
だが、何らかの原因があることは確かであり、その原因を取り除かなければ、人口の減少を止めることはできない。
方法は簡単である。人口が増加したことで問題が発生したのだとすれば、人口が減少することで問題は解決する。人口の増加が不便を生んだのだとすれば、人口が減少することで不便は解消され、人間にとって快適な環境が戻ってくる。そうすれば、また人口は増え始める。
人口は自然に増減するものであり、一時的な動向に一喜一憂するべきではない。むしろ、人口の増減に振り回されない社会を作ることが人類の目標だと言える。
アメリカ経済の秘密
さて、本題に入ろう。
すでに述べた通り、日本の人口は減少している。いくつかの先進国でも、人口は減少に転じつつある。だが、アメリカの人口は増え続けている。それはなぜか。
なぜかというと、アメリカの人口はまだ限界に達していないからである。改めて考えてみると不思議に感じるのだが、どうしてアメリカの人口はあれほど少ないのだろう。
アメリカ合衆国の面積は約1000万平方キロで、世界第3位であり、中国とほぼ同じである。緯度も中国と同程度であるから、本当ならば、中国と同じくらいの人口があっても不思議ではない。だが実際には、アメリカの人口は3億人強であり、中国の4分の1にすぎない。
我々は、どうしてアメリカの人口は増え続けるのか、ではなく、どうしてアメリカの人口はこんなに少ないのか、と問わねばならない。アメリカの人口は、その地理的な条件と比較して少なすぎるのである。
これは、アメリカという国家がまだ発達しきっていない証拠であると考えられる。アメリカはまだ、成熟した国家が必ず抱える人口問題を経験していないのである。
人類の知恵は限られた資源をやりくりするところから生じる。資源を分け合うことから思いやりが生じ、友愛が生じる。アメリカ文明はまだその段階に達していない。というより、そうなることを拒否しているように見える。
我々はこれを「アメリカ的な幼稚さ」と名付けることができるかもしれない。成熟を拒む人間の類型である。中国がアメリカほど傲慢でないのは、資源を分け合うことの大切さを知っているからである。もちろん、それも完ぺきとは言えないが。
日本社会が人口の減少を拒むのはなぜか。
それは競争にさらされているからである。人口が減少すれば国際的な競争力が落ちる。だから人口を増やさねばならない。
この競争において、アメリカに勝てる国家は存在しない。なぜならば、アメリカはつねに資源を持て余しているからである。アメリカ国内に存在する資源の量に比べて、アメリカの人口は圧倒的に少ない。にもかかわらず、人口の絶対量は世界第3位の大きさである。これが強すぎるアメリカ経済の秘密である。
アメリカは人口を抑制することで、その競争力を維持している。もちろん、その抑制は意図的に行われたものではない。ただ単に、アメリカの歴史が浅く、まだ文明が成熟していないだけである。経済力の強さは文明の証というより、野蛮さの証なのかもしれない。