ロングテール、という言葉をよく聞く。社会における富の分布はロングテールになっているらしい。そのほか様々な社会的指標がロングテールの法則に従っていることを、誰かが証明したという。
ロングテールというのは、変数を k としたときに、k という値を持つ要素の数が、k の – r 乗に比例する、という分布のことである。このグラフの形は、たとえば重力の法則に似ている。重力の強さは距離の二乗に反比例するが、それは k を距離、r を 2 としたときの、ロングテールのグラフと一致する。
数学的な分析が切り取るのは、あくまでも現実の一側面であり、そのすべてではない。
たとえば、資産の分布が人間の生活水準を決めているかといえば、そうではないだろう。まず、資産と収入は異なる。人間の生活水準に直接影響するのは収入であって、資産ではない。
もちろん、それらの間には相関関係があるだろうが、その相関関数がどのようなものになるかは、あらかじめ決まっているわけではない。それは社会の形によって変わりうるだろう。お金というのは流動するものなので、その流れる速さや流れ方が問題とされるべきである。
また、ロングテールの形を決める r の値や比例係数も、ア・プリオリに決められるわけではない。その値は、もしかすると我々の行動によって調節可能なものかもしれない。
また、度数分布には個性が反映されない。つまり、度数分布が経時的に同じ形をしているからといって、その要素が不変であるとは限らない。要素が入れ替わっていても、グラフが同じ形をとるということはありうる。その入れ替わりをいかに制御するか、ということも一つの課題である。
何が言いたいかといえば、我々自身が、度数分布の形を決めることができるかもしれないし、また、そのグラフが持つ意味を選択することもできるかもしれない。
数学は何も語らない。同一の数学的な表現は様々な意味を持ちうるのであり、そこからどのような意味を汲み取るかということは、人間の裁量である。